ハンター6
2009年 03月 26日
別に変な趣味があるわけでも、家系に問題があるわけでもないごく普通の15歳だと思う。
友達と一緒に漫画を読んだり、買い物やカラオケに行ったり、春休みが終わったら高校生だなって楽しみにしてたのに・・・
この仕打ちはあんまりじゃないかと思います。
きっとこの世に神はいない・・・きっと居ても性格の悪い神様だけだと思う。
そんな事を思いながら何処とも知れない森の中、狼の群れに囲まれている真っ最中です。
ハンター二次裏 -1-
中学の卒業式が終わり、泣かないぞと決めていたけど周りにもらい泣きしてぐしゃぐしゃの顔で帰宅してから早数日。
新しい制服の準備も出来たし学校に必要な諸々も準備完了。
遊び倒せとばかりに友達とカラオケやショッピングにと大忙し。
今日は、しばらく前に出ていたハンター×ハンターの23巻を購入してこれから読書と決め込む予定。
受験で漫画を読むの我慢してたけど、その間、ほとんど出てないって言うのはどういうことだろう?
富樫さんはもう少し頑張るべきだと思う。
ジャンプの本誌は読んでないけど、読んでる友人いわく・・・
「ハンター×ハンター? あぁ、あれって年刊になったみたい」
だそうだ。
そういえば、キメラアント編も長いなぁ。
正直、ハンター×ハンターは好きな作品だけど、友人らが言うみたいに作品の世界に入り込んで登場人物と仲良くしたいとはあまり思わない。
ネットで夢小説って言うのがあるそうなんだけど、一般人が紛れ込んじゃったらよほど運が良くなかったら死んじゃうよね。
私も最初は、クラピカくんかっこいい、ゴン君可愛い、キルア君クールとか思って、現実で会ってみたいなぁって思ってたけど、ひねくれものの友人Aが思いっきり現実を諭してくれたおかげで今ではあの頃みたいに純粋に作品が楽しめなくなった気がする。
それが良い事だったのか悪い事だったのか・・・
買い物を済ませ帰宅途中、ふと薄暗い路地裏に目が行った。
何年か前に私と同じくらいの男子達が喧嘩して沢山の子が警察官に補導されたらしい。
別にそれだけなら物騒な話ではあるけど珍しい話じゃない。
この話で不思議な事が一つあったから有名な話になってしまったらしい。
それは、喧嘩して捕まった男子の一人が血まみれのナイフを持っていて、その場に確実に致死量近い血痕が残っていたせいだ。
だけど、血痕は残っていても怪我人が居なかった。
警察は付近を捜索したそうだし病院にも連絡してそれらしい患者がこなかったか調べたみたい。
結局、刺された被害者は見つからず、刺した人も支離滅裂な事しか言わなかったみたいでこの話はおしまい。
丁度その頃、私の中学に行方不明になった先輩が居たらしくて、中学に入ってすぐの頃、怪談話の一つとして先輩に聞く機会があった。
どうやらその先輩はあまり素行が良くなかったらしくて、多分家出したんじゃないかって笑いながらネタ晴らしもしてもらった。
確かその事件が起こった場所がこの路地の奥だったらしい。
新しい生活への期待で浮かれていたのか、この時の私は少しうかつだったように思う。
多分、血痕でも残ってないかなって思ったのかな、私は路地の奥に向かって入っていった。
路地は薄暗くてあんまり良い匂いがしない。
空が狭いせいか、圧迫感を感じてしまう。
地面を見ながらうろついていると奥の方から人の話し声が聞こえた。
その時、初めて思い至ったんだと思う。
柄の悪い男の子達が喧嘩してたって事は、そこには柄の悪い男の子達が居るって事で・・・
そこからの事はあんまり思い出したくない。
色々付き合えとか、カラオケにでも行こうぜとか、そんな感じで強引にナンパされた。
別に廃ビルに連れて行かれて乱暴されたとかそういったわけじゃなかったけど、こう言う状況はそれを想像させられてパニックになるには十分だって事。
腕を捕まれて何処かに連れて行かれようとするけど、周りに誰も助けが居なかった。
あぁ、やばいなって思って思いっきり暴れたら、私を捕まえている人の鼻に運良く(運悪く)私の腕が思い切り当たった。
それで一瞬その人はのけぞったけど、その後すごく怒って私は頬を思いっきり殴られた。
そして、吹き飛ばされ転んだ私は運悪く、硬い石の様な物(コンクリートの塊だったんじゃないかって思う)に頭をぶつけた。
凄い衝撃に一瞬意識が遠くなって、そして、頭から多分血が出てるなって感じながら気がだんだんと遠くなっていく。
やばいとか逃げろとか言ってる声がうっすらと聞こえてきたけど、多分誰も救急車呼んでくれないんだろうなって思った。
これから高校生活がまってたのにな・・・あぁ、付いてない、嫌だなぁ。
そうして私は意識を失った。
目が覚めるとそこは森の中だった。
目覚めたばっかであんまり頭が働いてないって言うのがわかる。
森の湿気を含んだ清浄な空気に、森を渡るそよ風を感じながら、やけにリアルな夢だなぁとか考えていた。
しばらくその場でぼうっとしてたけど、どうやらこの夢は覚める気配が無いなと感じで寝ぼけた頭で何処か散歩をしようと考えた。
森の中を歩いてみるとあまり日本といった感じがしなかった。
時折見かける動物はあまり見たことの無い種類だし、生えている草花も見覚えの無いものが多い。
しばらくすると頭も冴えて来て、眠る前に起こった出来事を思い出した。
路地裏での揉め事、掴まれた腕、頭に受けた衝撃、流れる血。
掴まれた腕と石で打った頭の部分をそっと触ってみるけど何の傷みも違和感も無くて、そしてやたらとリアルな感触に、これが夢じゃないって事を漠然と理解した。
だとしたらここは何処なんだろう?
実は路地で怪我したのが夢で眠っている間にこっそり森まで連れて行かれた?
怪我で昏睡状態になりその間に怪我が治った、そして起きる前に森に連れてこられた?
どちらにしても森に居る理由がわからない。
遠くの方から水の流れる音が聞こえてきたのでそちらへ向かって歩いていく。
すると、ちいさな湧き水があり、その水が沢を作って流れている。
少し躊躇いながらも水で喉を湿らせた。
少し汲んで行きたい所だけど入れ物が無くて断念。
水のある所の近くに人里があるって言う漫画知識を思い出して流れに沿って歩いてみる。
そうして冒頭のシーンに続く。
気がついたら知らない場所で、歩いていたら狼の集団に出会うなんて、理不尽だなぁ。
正直、無力な一般人には逃げるくらいの選択肢しか残されていないと思う。
最初は少なかった狼も遠吠えを上げるたびに一匹、また一匹と増えていく。
私は川に沿って必死に下流方面へ駆けていく。
必死に走っていたので、何時も以上に軽い足取りとなかなか疲れが来ない現状をまったく不思議と思わなかった。
しかし、それでも走り難い森という立地や、数の差という不利な条件があり、結局、私は走れなくなり狼に囲まれてしまうことになる。
「わ、私を食べても美味しくないよ・・・」
当然、狼に話しかけても返事も来ないし助けてくれるわけも無い。
あぁ、もう終わりかなと思った瞬間。
目の前に飛び込んできたのは寝癖の目立つ頭にメガネをかけてシャツをだらしなく着ている冴えない男の人だった。
男の人は大きく息を吸ったと思うと、鼓膜が破れるかと思う大音量で、
「渇っ!!」
と凄まじいまでの大声で叫ぶ。
まるで空気が凄い勢いで向かってくるようなそんな大声に、私は耳を押さえてうなっていた。
狼も驚いたのか、私に吠え掛かってきた時とは大違いの情けない声で鳴きながら散り散りに去っていった。
狼が居なくなった事を確認してからメガネの男性がこちらを振り向いた。
なんとなく優しそうな人だなぁとボーっと見てたら、案の定、優しそうな表情で話しかけてきた。
「大丈夫ですか、お嬢さん。」
「は、はい、た、助かりました・・・」
その人の笑顔に思わず安心して、私は腰砕けになってその場に座り込んでしまった。
それを見た男の人はゆっくりと近づいてきて私に手を差し出してくれる。
「はじめまして、私はウィングと言います。しかし、あなたのような女性が何故こんな森の奥に・・・」
不思議そうな男の人・・・ウィングさんの手を取って何とか起き上がる。
「あの、私、佐倉知枝と言います。助けて頂いてありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げてふと違和感を感じる。
ウィングと言う名前とこの容姿に何故か見覚えがあるのだ。
「えっと、こんな森と言われましても、ここって一体何処なんですか?」
「ここは天空闘技場近くの森です。えっと、サクラさん? あなたも天空闘技場に試合を見に来たんじゃないのですか?」
ウィングさんのその言葉に頭の中で回路が繋がった感じがした。
そう、ウィングさんはハンター×ハンターに登場した人物。
念のことを主人公に教えて序盤のキーパーソンの一人の名前だ。
私はその事に気付いて愕然としてしまった。
「とりあえず、サクラさん、ここで話すのもなんですし町まで送りましょう。よろしければその後落ち着いてから事情を聞かせていただきます。」
そういって私を先導して町のある方向へとゆっくり歩き始める。
私は混乱しながらもウィングさんのあとを追いかける。
どうしたらいいんだろう・・・その言葉がとにかくエンドレスに頭をよぎっていた。