双演のレギオス
2009年 04月 30日
レギオス実験SS ばったもん二人旅立ちの巻
化錬剄と言うのは通常、体外に出る事で外力系衝剄として衝撃破に変わる剄に特殊な変化を起こし、純粋な衝撃破以外の形に変化させる技術だ。
化錬剄を活用するなら通常は剄を変化させやすい紅玉錬金鋼を使うと良い。
ただ、熟練者になってくれば剄の通りが良く高出力に耐えやすい白金錬金鋼をオススメする。
剄の変化は本人の技術次第でどうとでもなるが、汚染獣を相手取る場合、威力はあればあるほど良いからだ。
とまぁ、現実逃避もこれくらいにして目の前の問題を片付けよう。
手には白金錬金鋼製の杖、前衛は少数、天候は良好、横には馬鹿。
だからと言って別に絶望するような状況ではない。
都市の外縁部で雲霞の如く押し寄せてくる幼生体を眺めながら比喩無しにそう思っていた。
「おっしゃ、俺の活躍タイミング来た! 幼生体とか雑魚雑魚、俺TUEEEしてやんよ」
脳沸いてるんだろうか?
正直、この隣に居る幼馴染の事が良く判らん。
「おい、ラス。お前も俺の次に強いんだからちゃんと俺TUEEEしろよ? 初陣だぜ、初陣。初陣にして大活躍とかちょっとかっこよくね? お前ぱっとしないからさ、活躍したら俺の次くらいにもてる様になるんじゃねぇか? うっはうはだぜ、うっはうは」
すっげーうざい。
話だけ聞いてると脳の足りない自信過剰武芸者なんだがなぁ。
こいつが言ってる事があながち嘘じゃないのが困る。
そもそもコイツは生まれたときから馬鹿だった。
いや、同い年で同じ孤児院で育ち人生の大半を一緒に過ごしてる訳だが流石に赤ん坊の頃なんて俺は覚えていない。
ただ、聞いた話によるとかなり早熟の子供だったらしい。
驚くほど速く言葉を覚え、驚くほど速く二本足で歩くようになったとか、だが言葉を覚えても口から出てくる言葉は正直意味が判らない事が多いので天才とは言われたりはしなかったようだが……むしろ奇才の類と認識されてたようだ。
俺も、コイツも武芸者だったから物心付いたときから剄と言う存在を知覚していた。
それに並々ならぬ興味を持ってその奇才っぷりを発揮したのが俺とコイツの始まりだった。
普通は武芸者としての始まりですらない時期にコイツは大人から基本を学んで武芸者としての道を歩き始めた。
別にそれだけなら良い、自分で自分の道を決めただけだ、かなり早いとは思うが心配するくらいで最終的には応援だってするだろう。
それに付き合わされる事さえなければだがな。
まぁ、昔は俺も若かった(今も充分若いが)、素直にコイツの武芸者ごっこ(実際には武芸者の基礎訓練だったわけだが)に付き合う事になった訳だ。
で、始めに習うのは剄息(体に剄を巡らす為の特殊な呼吸法)だったんだが、普通に剄息を使えるようになったらそれを二十四時間寝てる時も使えるようになるんだとか言って実際に実践し始めた。
そんな事を大人はやってなかったしやれとも言われなかった。
しかし、コイツはそれを始めて、俺もそれに付き合った。
この時、俺とコイツは3歳、コイツは馬鹿だし奇才だから良い、だけどなんで俺はコイツに付き合ってこんな事をしてるんだろうか?
いや、判ってはいるんだよ、なんだかんだ言ってこの頃の俺はコイツの事が好きだった、やってる事を真似したがるくらいには。
この事に限らず、武芸者としての修行は続いていった。
実際、剄息を常時する事で、どうやら剄脈(体内にある剄の通り道)の通りも良くなり、成長期でもあった為か剄脈の拡張と言う事が起きたらしい。
そのせいか俺とコイツは都市の武芸者と比べてありえないくらいの剄の出力と量を持つ様になっていた。
しかし、何時もコイツの真似ばかりしていた俺も、流石に資質自体は同じではなかった為、武芸者としての道は別れてしまった。
そもそもだ、コイツの行動は突拍子が無さ過ぎる。
「なぁ、ラス。鋼糸ってかっこよくね? ずばずばーってさ、ちょっくら練習してみようと思うんだよね」
とか、まぁ、唐突すぎて本当に訳が判らない。
実際、それでいて自己流で何とか形にするところがコイツらしいんだがな。
ちなみに俺は化錬剄に素質があったせいで(体術は並くらいらしい)後方支援用に遠距離系の技を学んだ。
錬金鋼の形を選ぶ時、コイツに無理やり形状を決められたりしたが今となってはあってると思うのでまぁ、許しておこう。
「トロイアットktkr!」
誰だ、そいつは……
ちなみにコイツはリンテンス燃えとか、だから誰だそれは……
で、二人で修行したり、大人に修行見てもらったりしていたら気付いたら強くなってきたみたいだ。
過信とか自信過剰という言葉が頭にちらつくんだが、特にコイツを見てるとなぁ。
でも、間違いは無いらしい、最近、大人がこっちを見る目で判る。
もう何年もコイツ以外と訓練していないし、大人も俺たちの前では訓練したがらない。
その目に浮かぶのは、多分、恐怖って奴なんだろう。
多分、コイツは全然判ってないんだろうな。
そして、そんな中、汚染獣の存在を都市の念威操者が発見し俺たちも迎撃に向かう事になったわけだ。
雲霞の如く押し寄せてくる幼生体。
杖型の錬金鋼に剄を通して化錬剄の網を張り巡らせる。
杖を中心の広く編まれた網がエアフィルターを通り、都市内部に侵入した幼生体の第一陣を絡め取る。
広く平面に広がった網だが、俺が杖を捻る事で、それに合わせて杖を頂点とした円錐状に捻られ、絡め取られた無数の幼生体は逃げる事も出来ずに一塊に纏められた。
【外力系衝剄の化錬変化・縛狼索】
剄で編まれた網は俺の指示通り、衝剄へと変化し、絡め取った幼生体を粉みじんに吹き飛ばす。
「ナイス、じゃあ、次は俺がいくぜ! 貴様らは微塵切りだー、ヒャッハー!」
頭の悪い叫び声を上げながらコイツは両手を指揮者のように掲げそのまま第二陣の幼生体に向かい振り下ろす。
コイツの前方には一切の味方は居ない、幼生体とコイツを遮る障害物も一切無い。
第三者が見ていたら一人戦闘に立ち孤立するコイツを自殺志願者かと思ったかもしれない。
だが、その予想は当然のように外れる事になる。
トコロテン作り機なるものを知ってるだろうか?
四角い筒の片方の出口に格子状の糸が張り巡らされていて筒の中に塊のままのトコロテンを入れて後ろから押し込むと格子の形に切り分けられたトコロテンが出てくると言う仕組みのアレだ。
コイツの目の前に編まれた糸は正にそれそのものだ。
糸に斬剄を纏わせ、相手の運動エネルギーのままにその相手を微塵切りにする。
【外力系衝剄の変化・心太切】
ネーミングは最悪だが、性悪で最悪の技であるのは判るだろう。
次から次に自殺するかのように糸で微塵切りにされていく幼生体に僅かながらの同情を禁じえない。
しかし、それを眺めてばかりは居られない。
俺はその死刑場を尻目に、見通しのいい高台へと旋剄で移動すると、杖の先に化錬剄で高出力の光エネルギー体を生み出し、同じく化錬剄で光源の周囲の空間を歪め光を収束させる。
余す事なく束ねられたそれはレーザーとなって杖の向いた先の幼生体集団の中心を穿つ。
【外力系衝剄の化錬変化・砲閃華】
そのまま、大気レンズの焦点を操り一本の太い光線は複数の細い光線となって広い範囲の幼生体を穿ち、切り裂き、焼き殺す。
【砲閃華・柵光】
敵・敵・敵、無数の敵をただ機械的に屠っていく。
こんなものか、話に聞いていた汚染獣というのはこの程度のものなのか?
初陣に緊張していた体が弛緩して行く。
初陣、初陣、そう、初陣だ。
俺達は、何の問題も無く初陣をこなし、この都市の武芸者として最多の撃墜数を叩き出した。
「あっれー、なんで俺らあの都市から出ないといけなくなったんだ?」
「過剰戦力でびびられたからだ」
放浪バスにゆられながら俺は答えた。
そう、あの後、都市に戻った俺たちを待っていたのは同じ武芸者から向けられる恐怖の目だった。
多少の、理解できる強さなら良かった。
それなら尊敬できたからだ。
だが、俺らはどうも理解できない部類であったらしい。
表立って何も言われなかったし、それなりの報奨金も得た。
だが、武芸者達の態度を見た一般市民の目が徐々に恐怖と言う色に染まっていった。
別にこの都市は俺たちに縋らなければならないほど戦力は不自由していなかった事もこの事態を後押ししたのかもしれない。
丁度良い年齢になった事を理由に孤児院の院長先生が俺たち二人に学園都市への入学を勧めてきたのだ。
「てか、普通、俺らの強さを尊敬してちやほやするのが正しい都市のあり方じゃねーの?」
「知らん、いや、知ってるが今更言っても詮無い事だ」
首を捻るコイツを横目に正直居心地の悪いあの都市を出られてほっとしていた。
普通は現役の使える武芸者を外に出す事などありえない。
それが若年であっても、学園都市への留学と言う名目があったとしてもだ。
恐れられたわけだ、やりようによっては二人で都市を制圧できるだけの戦力を。
「あーあ、つまんねぇなぁ。折角、孤児院の暮らしから脱出して酒池肉林とか出来るかと思ってたのによ」
「良いじゃないか、学園都市での生活費と学費は全額援助してもらった、そして外の世界を見る機会もくれた、折角の好意だ受けておけば良い」
肩をすくめる俺に、肩甲骨まで伸びた黒髪に切れ長の目をした同い年の少女が答える。
「で、ラスは本気でそんな事を思ってるわけ?」
「それこそまさかだな。学園都市の数年を使って適当に一般人に見える在り方ってのを学んでみるさ。何処か住みやすい都市の情報とかもな」
「えぇ~、一般人とかありえねーよ。もっとこう、派手に行こうぜ? で、なんて学園都市だっけ?」
「学園都市ツェルニだ」
「ツェルニね、ツェルニ……あ~何処かで聞いた名前だなぁ?」
「どうでも良いが、エディうるさい。他の乗客が迷惑してるだろうが」
「へいへい、ラスは口やかましくていけねーや」
これがラスト=イルルカとミレディア=イルルカの旅の始まりの一幕だった。
ブリーチ書けよと言われながら超実験作……前言撤回もはなはだしい。